第5話

         ヨーロッパの孫に聞かせる

 

日本と世界の歴史

 

第5話 宇宙138億年の物語

 

 

 

岡市敏治

 

 

 僕たち人間はどこからやってきたのだろう。いつからこの地球上に存在するのか。この地球はいつどのようにしてできたのだろう。僕たちはなにものか。考えれば考えるほど不思議だね。今回はその謎を解き明かすことにしよう。

 

君は間もなく中学校(Mittel shule)で元素周期表を学ぶはずだ。図1がその表だ。これは地球に存在する物質の一覧表だよ。

 

 

  1. 地球は92の元素でできている

 

元素周期表を左上から右へ順に見てみよう。1番のH(水素)から103番のLr(ローレンシウム)まで軽い元素から重い元素へと順に並んでいる。数字は原子番号で、重さの順番を現わしている。地球には100余りの元素(原子*1)があるが、天然に存在するのは92のU(ウラン)まで。

 

 

それ以上に重い元素は不安定(放射性)で天然に存在できない。人間を含め地球にあるすべての物質はこの92の元素からできている。

 

人体は水素H62.5%)、酸素O24%)、炭素C12%)、窒素N1%)の4元素が主成分だ。HOが多い(86.5%)のは人体の大部分が水だからだ。水はHOという分子*2だからね。だけど、この4元素(合計99.5%)だけでは、人間は生きていけない。他にPCaKFeのどの1元素が欠けても人体は生き物として機能しない。

 

燐(P)は人体の設計図の役割をするDNAに必須のもので、Pがなければ細胞分裂もできなければ子孫に命をつなぐこともできない。カルシウム(Ca)とカリウム(K)がなければ骨や歯はつくれない。鉄(Fe)がなければ、血液(ヘモグロビン)は酸素

 

O)を体中に送れないのだよ。

 

人体を含め地球上のどんな複雑なものも92の元素からできている。材料はこれだけ。そして宇宙にある全てのものも、この92の元素でできている。銀河の星と僕たち人間はみんな同じ原料なのだ。

 

*1 原子:元素の特性を失わない範囲で到達しうる最小の微細な粒子。『分子』を形成する。『元素』は「原子の種類」を意味する。

 

*2 分子:物質の化学的性質を変えずに独立に成立することのできる最小の粒子。

 

例:水素H、酸素O、水HO、アミノ酸NHRCHCOOH

 

 

 

ところで、これらの元素は地球では絶対つくれない。全ては宇宙の星で作られた。

 

 元素は太陽のような恒星で作られている。元素が生まれるには核融合が起きるほどの超高温と超高密度が必要だからだ。 

 

まず身近な星・太陽を見てみよう。太陽は46億年前に誕生した大部分水素(H)でできた星である。その中心部は1500万度(鉄は1500度で溶ける。その1万倍の高温だよ。)、2500億気圧ある。Hが核融合反応をおこしてHeになる時、質量が少し減って莫大な熱エネルギーを発生させる。アインシュタインの有名な方程式がある。

 

   E=MC  E:エネルギー、M:質量、C:光の速度

 

つまりわずかの質量の消失でも光速(30万km/秒)の2乗(300,000,000×

 

300,000,000=9×1016をかけるので膨大なエネルギーが発生するのだ。

 

 太陽の中心部でHが燃やしつくされると、次はHeの核融合反応が起こる。そしてCで反応は打ち止めになる。星はその重さによってどこまで反応が起こせるか決まっている。重い星ほど、中心部の温度が高くなるためより重い元素の反応を起こせる。しかし、星の内部で作れる元素は、Feまでである。Feはすべての元素の中で最も安定した元素だから。太陽はCまでつくると燃え尽きて白色矮星となってその一生を終る。あと50億年の寿命である。

 

 それでは、Feより重いUまでのあと66の元素はどこで作られるのだろう。それを説明するためには、138億年前の宇宙の誕生まで時間をさかのぼらねばならない。

 

第2章 ビッグバン宇宙の誕生

 

138億年前、宇宙は無(真空)から突如として生まれた。真空とは単なる空っぽの空間ではなく、正体不明のダイナミックなエネルギーを隠し持っているということが、近年の宇宙観測によってわかってきた。

 

時間も空間も物質もなにもない真空が、突如インフレーションという急激な膨張を引き起こし、超高温、超高密度の火の玉となって爆発した。これがビッグバンである。(図2)

 

 

 正体不明の真空のエネルギー*1がビッグバンによって物質と光に転じたのだ。

 

EMCだ。ビッグバン時のインフレーション中に仕組まれていた物質の非対称、わずかのゆらぎが時間と共に成長して、銀河や星が生まれ、僕たち人類を含む多様で美しい宇宙がつくられた。

 

ところで無から出発したビッグバンからどうして質量(重さ)が発生できたのだろう。生まれた物質(素粒子*2)に質量をあたえたのがヒッグス粒子*3である。素粒子が集ってHHeの物質(分子)が誕生するのはビッグバンから38万年後だ。ところで、Heより重い元素はいつできたのだろう。宇宙空間には水素(H)でできたガスとチリが無数に存在していた。このチリにはわずかに密度の濃淡(ゆらぎ)があった。

 

*1 真空のエネルギー:宇宙の組成は次の通り。(以下のデータはNASAの宇宙探査機WMAPの解析結果)

 

 ①通常の物質:4%(私たちの体や輝いている星を構成する、見える物質)

 

 ②暗黒物質(ダークマター):23%(銀河や銀河団の中を満たしている、正体不明の見えない物質)

 

③暗黒エネルギー(ダークエネルギー):73%(宇宙全体に、一様に広がった正体不明の見えない「真空のエネルギー」)[つまり星やガスなど宇宙にあるすべての原子をかき集めても宇宙全エネルギーの4%にしかならない。(E=MCで物質の質量はエネルギーに換算できる。)あとの96%は正体不明という驚くべき事実が最近の観測結果から明らかになった。宇宙で分かってるのは4%だけだということ。]

 

*2 素粒子:物質を原子、原子核、中性子とどんどん細かく分けていき、これ以上分割できないところまでいった最後が素粒子。物質を構成する素粒子のほか、力を伝える素粒子と、質量の起源であるヒッグス粒子がある。全部で17種類ある。

 

*3 ヒッグス粒子:質量をあたえる役目を果たしている。ヒッグス粒子が存在しなければ、あらゆるものが光速で飛んでしまい、宇宙の成り立ちが説明できない。欧米では「神の粒子」とも呼ばれている。2012年、欧州合同原子核機関(CERN・ジュネーヴ)の大型加速器「LHC」でその存在が検証された。

 

 

 

第3章 星は元素の製造工場

 

濃いチリがうすいチリを重力(万有引力*1)で引きつけて“星の素”ができてくる。

 

チリが集まり、星のかたまりが大きくなればなるほど、重力も強まり、星の密度は高くなる。重力収縮*2により中心部の圧力が上昇、ガス(H)の温度も高くなる。1500万度、2500億気圧になったとき核融合反応が起こり、HHeとなり膨大な熱と光が外部に放たれ、星は輝き出す。太陽はこのようにして誕生した。Hが燃え尽きると、次々に重い元素の核融合反応が起こるという具合に、星はその一生をかけてCOKCaCrMnそしてFeまでの元素を作り続けるのである。しかし星の内部でできたこれらの物質は星の中にとどまり、宇宙に放出されることはない。

 

太陽より10倍以上重い星のたどる運命は激烈である。引力の持つ内部圧力があまりに強すぎるために星の中心部は超超高温、超超高密度となり、内部でHが急速に燃え尽き、太陽のような小さな星*3よりずっと早くその一生を終える。

 

Hが全て燃え尽きると、星は重力崩壊し、急激に圧縮されて温度が何億度にも急騰する。

 

今度はHeからCOFe、さらに92番のウラン(U)までの重い元素が一気に爆発的な核融合で生成される。巨大な元素融合工場となったこの星は、次の瞬間、超新星爆発と呼ばれる大爆発によって吹き飛んでしまうのだ。

 

超新星爆発の間、その星は太陽よりも数10億倍も明るくなるというのだから、それはとんでもない大爆発だ。星でできた92の元素はこのとき全て宇宙に吹き飛ばされる。

 

わが銀河系宇宙で50億年ほど前、太陽の10倍以上の巨大な星が超新星爆発を起こした。それはそれは世にも恐ろしい光景だったろう。宇宙空間に吹き飛ばされたガスや星のカケラ(92の元素)を集めて46億年前に誕生したのが、地球を含む8つの惑星をもったわが太陽系だったのだ。(図3)

 

*1 万有引力:りんごが木から落ちるのを見てニュートンが発見した。大きくて重いものほど引力が強い。つまり地球の引力がりんごを引っ張った…。どうして??? ウウーン*** それは君のパパに聞きなさい。パパはウィーン大学の物理学の先生なのだから。

 

*2 重力収縮:“星の素”はいったん自身の重力で縮み始めると、中心部の圧力は上がり、ガス(H)の温度も高まり、ガスが固まりとして膨張しようとする力が強くなる。「膨張する力」と「押し縮めようとする重力」が釣り合った時、ここに「原始星」が誕生する。

 

*3 太陽の大きさ:小さいといったって直径は地球の109倍。質量は地球の332,900個分ある。

 

 

 

 

第4章 奇跡の水惑星・地球

 

ところで、僕たちの住む地球の内部はどうなっているのだろう。(図4)

 

僕たちは地球の中を直接のぞくことはできない(なにしろ地球の中心まで6400kmもある。)が、地震波伝達の分析によってかなりのことが分かっている。原始の地球がまだ熱く溶けていた段階で鉄(Fe)やニッケル(Ni)など重い成分が分離し、重力によってこれらが地球中心部に集まった。だから、地球の核の部分はほとんどFe(90%)とNi(5%)でできている。

 

マントルの層は大層厚く地球体積の8割を占める。マントルは玄武岩や花崗岩などの岩石でできている。岩石は硅酸(SiO)と酸化した金属(AlMgCaFeなど)が結合してできたものである。

 

そして生命にとって決定的だったのは、地殻の表面に水H2Oが存在したことだ。太陽系の惑星は水星から海王星まで8つあるが、液体の水が地表に存在するのは地球だけである。水星と金星では太陽に近すぎて、水は蒸発してしまう。火星より外側の惑星は太陽から遠く、寒すぎて水は固体(氷)になってしまう。

 

地球は太陽から程良い距離にあって、水が液体で存在できる唯一の奇跡的な惑星だったのである。それなら太陽から程良い距離の月になぜ水が存在しないのか。月では水は液体で存在できたが、質量が地球の1/80と小さく、月の引力では水を月表面に引き留めることができなかった。水は宇宙空間に飛散してしまったのだ。太陽からのほどよい距離とほど良い大きさを併せ持った地球は奇跡の水惑星である。

 

 

        第5章 生命の誕生

 

生命は地球上でどのように生まれたのだろう。生命とはそもそも何だろう。地球の生命はタンパク質をうまく使って自分の体を作ったり活動のためのエネルギーを得たりする(代謝)。また、DNA(デオキシリボ核酸)RNA(リボ核酸)という2種類の核酸を使って自分と同じ子孫を残す。同じタンパク質を作るには核酸にある情報が必要だし、核酸を複製するにはタンパク質の助け(酵素の触媒作用)が必要だ。そしてタンパク質と核酸という2種類の分子は細胞という袋の中に入っていて外界と区別されていなければならない。(図5)

 

この袋に入った細胞が分裂して自己複製を繰り返すことにより生命体ができあがる。人間の赤ちゃんはお母さんのおなかの中(子宮)の受精卵(細胞)1個から誕生をスタートする。子宮の中で約300日間細胞分裂をくり返し繰り返して出生、ついには、60兆個

 

(60,000,000,000,000個)もの細胞の有機体となったのが僕たち人間なんだよ。

 

命の源となる生体高分子としてのタンパク質はどのようにしてできたのだろう。タンパク質と核酸の素となるのはアミノ酸である。このアミノ酸が数十から数千に結合(ペプチド結合)してできたものがタンパク質である。(図6)

 

それではタンパク質の原料物質であるアミノ酸はどうして作られたか。

 

原始地球にはたくさんの隕石が宇宙から降り注いでいたが、隕石にはアミノ酸が含まれていた。そのアミノ酸が海中(H2O)に溶け込み、海底の熱水でペプチド結合反応を促進され、タンパク質や核酸が合成されたと考えられるのである。(図7)

 

 

海中で生成したタンパク質と核酸は脂質でできた袋の中に閉じ込められ、外界と遮断されて原始的な細胞が生成する。その細胞が「代謝」と「自己複製」をくり返し、生命が誕生したのである。それは地球ができて8億年後、今から38億年前のことである。

 

最初はバクテリアのような単細胞生物(図5)であったが、10億年くらい前に多細胞生物が誕生する。高等生物進化への道が開けたのである。

 

多細胞生物:形、大きさ、はたらきなどの異なる多数の細胞からなる生物。各細胞は、単細胞生物のように独立して生活する能力をもたないが、養分の移動や生殖活動といった特定のはたらきを分担して能率よくおこない、一つの生命体をつくっている。例:植物、動物、人間。

 

第6章 人類の祖先の登場

 

 5億4千万年前、多くの種類の動物が海中で爆発的に登場し、現生の動物の祖先はほぼこの時出そろう。最も繁栄した動物が三葉虫である。これをカンブリア大爆発と言う。

 

しかしこの頃陸上にはまだ生物がいなかった。一木一草とてなく、動物も何も文字通り虫一匹いない荒涼とした風景が地球上に広がっていたであろう。

 

というのも大気中の酸素O濃度が低く、生物の生存を許さなかったのだ。

 

それではOはどうして出現したのであろう。

 

10億年以上前から浅い海中でシアノバクテリア(ラン藻)が光合成を始めていた。

 

空気中のCOを吸収し、HOを分解してOを放出し始める。

 

                 光合成

 

CO+6HO+光エネルギー → CH12O+6O

 

二酸化炭素               ブドウ糖   酸素

 

 植物が地上に進出するのは4億年前である。以降植物は地上で絶えることなく光合成

 

(図8)によって盛んにOを生産し始めた。

 

地球上にある有機物の大部分と大気中のOは植物の光合成により生じたものである。大気中にOが蓄積されることにより、動物が地上に進出できる環境が整ってゆく。

 

有機物:炭素(C)を主な成分とする化合物。主として動植物の組織の中に見られる。例:ブドウ糖CH12O

 

 

 

 

3億6千万年前、陸上生物の祖先と考えられる大型の魚が初めて陸上に進出する。地上にはすでに石炭紀の森がひろがっており、酸素は今と変わらないくらいにまで増えていた。やがて恐竜を含む多彩な爬虫類が地球上で繁栄したジュラ紀がやってくる。

 

2億2千万年前、君の大好きな恐竜(Dinosourier)が現れる。恐竜は1億5千万年も地球上に君臨し、6500万年前、一気に絶滅した。メキシコ、ユカタン半島沖に巨大な隕石(直径10km)が落下したのだ。巨大隕石が地球に衝突すると、強烈な爆風や熱波、大津波が発生した。さらには、ほこりや水蒸気が太陽光を遮り、暗く低温の日々が何年も続いた(核の冬)。植物は枯れ、光合成は停止する。こうして大食漢の恐竜は絶滅した。

 

生きのびたのは、小動物の哺乳類や少食のナメクジたちだった。

 

ジュラ紀(Jurassic period:2億万年前から1億5千万年前の地質時代。海洋ではアンモナイト、地上では恐竜が多種多様な進化を遂げた。

 

 

 

 恐竜に代わって地球上の主役となったのが僕たちの祖先につながるこの哺乳類である。

 

 1000万年ほど前、熱帯の森林がその全土を覆い尽くすほど広がっていたアフリカで異変が起こる。アフリカの北部と南部から乾燥化が押し寄せてきたのだ。類人猿が生息場所としてきた熱帯森林がその分布を減少し始める。森林で生活する類人猿にとっては、生息範囲を狭められ、とても窮屈な生活を送らねばならなくなった。それでもゴリラとチンパンジーは森林にとどまって生活を続けた。

 

 狭くなった森林から、サバンナへと進出を決意した類人猿のグループがいた。樹上ではライオンなどの猛獣から身を守ることができるが、サバンナの開けた大地では常に危険にさらされる。地上を走るのが得意でない類人猿は道具を使って身を守る工夫をするようになった。サバンナでは森林ほど食べ物が豊富にないので小形動物も捕食した。開けた大地を歩きまわるようになり、直立の2足歩行が完成した。

 

 このサバンナに進出した2足歩行の類人猿こそ、僕たちホモ・サピエンスの祖先だったのだ。(図9)  次回は『登山の歴史』だよ。

 

 

 

 

ホモ・サピエンス:現生人類の学名。Homo sapiensとは「知性ある人」の意。現在、地球上に住んでいる人類と、

 

その直接の祖先である「新人」との称。つまり、知性Intellekt がなければ、ホモ・サピエンスの仲間に入れてもらえないということだ。知性とは? それはこのシリーズをしっかり読むことだよ。                                                   (つづく)2012.4.17