第1話

 

 

 

ヨーロッパの孫に聞かせる

 

日本と世界の歴史

 

第1話 宇宙の始まり

 

 

 

岡市敏治

イギリスの大学院を出て、ネパールやバングラディッシュ、インドネシアなどで国際貢献活動をしていた娘が、オーストリアの青年と結婚して、日本を去ったのは7年前である。2年前、ウィーンで初孫が生まれた。黒い瞳の赤毛のHANA(波奈)ちゃん。これは、13才(中学一年生)になったHANAに聞かせる日本の歴史である。

第一話は宇宙の始まり。これから10年かけて、地球46億年の命の歴史をたどっていく。

 

第一話 宇宙の始まり

僕たちはいったいどこからやってきたのだろう。君は一体なにものだろう。君は黒い瞳に赤毛のアンのような髪の色、周りの少女たちと少し違うね。その理由は君もわかっているはずだ。君のお父さんはヨーロッパ(オーストリア)生まれなのに対し、君のお母さんはユーラシア大陸の東の端に浮かぶ小さな島国・日本が生まれ故郷なのだ。ユーラシア大陸の西の端と東の端にいた二人がイギリスの大学院で出会って、愛を育んで、君が誕生したというわけだ。

君のお母さんが生まれ育ったニッポンとはどういう国だろう。ヨーロッパとどう違うのだろう。それより僕たちを乗せているこの地球はいつ、どのようにしてできたのだろう。 

さあ、これから僕の孫である君と共に命の源を探る壮大な知的冒険の旅に出発しよう。

 

夜空を見上げてみよう。星がきらきら光っているね。あの星のずーっとずっと向こうには何があるのだろう。宇宙の果てというのはあるのだろうか。僕も小さい頃星空を見上げてそんな不思議にとりつかれた記憶がある。僕たちの住むこの世界には始まりがあったのだろうか。もし始まりがあったのならそれはどのように始まったのだろう。遠くの星を眺めること、これは実は遠い過去を見つめることなのだ。

 

そしてぼくたちの地球も僕たちの人体も実は遠くで輝くあの星のかけらからできあがっているという驚くべき事実が、この50年ほどの爆発的な物理学の進歩と宇宙観測技術の革新によってわかってきた。ぼくたちの地球は太陽系の8つの惑星のうちの一つだ。その太陽系は銀河系という巨大な円盤の上にあって、そこには2000億個の太陽のような恒星がきらめいている。円盤の直径は10万光年という途方もない広大なものだ。太陽系はその中心から3/5の位置にあり渦巻状に公転している。

銀河系から一番近い星雲はアンドロメダ星雲で、近いといっても230万光年離れている。光年という単位は学校で習ったろう。光は1秒間に30万キロメートル進むね。30万キロメートルとは地球7.5周分だ。1光年とはその光が真空中を一年間進む距離のことだ。

9兆4605億キロメートルになる。それの230万倍の距離というのだからとんでもない遠さだ。そしてその間は何もない真空の暗闇だ。

むかしから船乗りが方角を決める指標としたこぐま座北極星は1105万光年のかなたにある。今までで観測された一番遠い星はクエーサーという天体で130億光年も離れている。この宇宙には銀河系のような星雲が2000億個もあるというのだから宇宙の広大無辺さはとても想像がつかないね。

 

ところで、星や星雲は猛スピードでどんどん遠ざかっている。銀河系同士が互いにどんどん離れていっている。遠い星ほど遠ざかるスピードは速くなる。そういうことがここ

20年の宇宙観測技術の進歩によってわかってきた。

ということはどういうことなのか。

宇宙は膨張しているのだ。反対にどんどん過去にさかのぼっていけば一点に集約してしまうということだ。過去をさかのぼると138億年前に一点になるということがわかってきた。その先は無だ。ぼくたちの宇宙は無から生まれた。無から生まれた小さな小さなミクロの宇宙はインフレーションという急激な膨張によってぼくたちが住むことのできるマクロの宇宙になった。インフレーション中に仕組まれた物質の非対称、ゆらぎが成長し、銀河や星が生まれ、ぼくたち人類の存在をも含む多様で美しい現在の宇宙が作られたのだ。

今から138億年前、宇宙は超高温、超高密度の火の玉で始まった。これがビッグバンといわれるものだ。この超高温の宇宙が膨張する過程で原子核反応によってさまざまな元素(100余)HOHeCFe(鉄)、Cu(銅)、Ag(銀)、Au(金)、Pb(鉛)…ができあがった。

この元素の構成は星々も地球も全く同じだ。ぼくたちの人体も星がその一生を終えるとき起こる超新星の爆発によって宇宙に散らばった星のかけら(元素)で構成されている。

こういう驚くべきことが宇宙を観測する事によって実証されてきたのだ。

                   (つづく)2011.5.24