『ヨーロッパの孫に聞かせる日本と世界の歴史 』の概要


―ぼくたちはどこから来たのか なにものか どこへ行くのか―

  

これは、ヨーロッパの13歳の少女への日本の祖父(Opa)からの手紙である。世界史を勉強すればするほど日本の歴史というのは世界でも第一級の歴史であるということがわかる。「君のMamaの生まれた日本の国はかなりすごいよ。」ということをヨーロッパの同時代史と対比させながら話を進めようと思う。日本の特殊性と普遍性が明らかになってくるだろう。ヨーロッパの孫のRespectをかちとるのは容易なことではない。(本稿はNPO Help Nepal Assosiationの機関誌に2011年5月から連載中)

 

第1話 宇宙の始まり(2011年5月)

 僕たちはどこからやってきたのだろう。宇宙は138億年前のビッグバンによって誕生。気の遠くなるような時間をかけて星が生まれ、銀河ができた。地球も僕たちの人体もあの夜空に輝く星のカケラからできている…。 

第2話 不思議の国ニッポン(2011年11月)

 日本は非白人国で唯一ヨーロッパの植民地になることからまぬかれ、世界でもトップクラスの文明社会を実現した。

梅棹忠雄『文明の生態史観』からその謎を読み解く。 

第3話 アルファベットと日本語の起源(2012年4月)

 日本語はどこから来たのか。日本語は孤立した日本列島の豊かな縄文の森で1万年かけて育まれた言霊。文字をもたなかったが、1500年前中国から伝わった漢字を訓読みにし、併せかなを発明して日本語化した。これは世界言語史上の奇跡。

第4話 複式簿記は人類最高の発明(2012年7月)

 複式簿記は中世ヨーロッパが生んだ人類最高の発明である。取引勘定を右と左に分けるだけで決算書が出来上がる。これによって、近代資本主義躍進の原動力となった企業の会計言語が確立した。 

第5話 宇宙138億年の物語(2012年11月)

 ビッグバンから90億年後に太陽系と地球が誕生した。地球に最初の生命(細胞)が現れたのは、38億年前。1.5億年前(ジュラ紀)は恐竜の全盛時代だった。1000万年前のアフリカで、森林からサバンナに進出した類人猿が直立の2足歩行を始めた…。 

第6話 人はなぜ山に登るのか(2013年3月)

 ヒマラヤ7000m峰で体験した低酸素下での過酷な高所登山。人はなぜ生命の危険を賭してまで山に登るのか。登山はルネッサンス以降の近代ヨーロッパで誕生した。文明史的視点から登山の魅惑を解明する。 

第7話 人類の教師ソクラテスと孔子(2013年7月)

 2500年前のギリシャ文明は、ルネッサンスによってヨーロッパに復興する。ソクラテスを頂点とする古代ギリシャ文明は、ヨーロッパの学問と芸術の淵源であり人類史の奇跡。ソクラテスの哲学、さらにはその生と死をたどる。

第8話 現代の聖者(2013年12月)

 これはNPO法人理事長だったある山男の物語である。1980年、カラコルム氷河で彼の所属する山岳会の後輩(25歳)がクレバスに落ちて遭難した。残されたただ一人のパートナーは、18m下のクレバスの奈落から友をザイルで吊り上げようと試みるが…。 

第9話 人類の教師 ソクラテスと孔子(後編)(2014年3月)

 孔子は中国史で「春秋戦国時代」と言われる乱世を生きた人類最高の学者、教育者である。その学問を政治に生かす道は閉ざされ、不遇の生涯となったが、孔子とその弟子の言行録『論語』は、2500年後の今も道徳と行動の最良の規範である。 

第10話 ヨーロッパ近代と江戸時代(2014年7月)

 近代ヨーロッパが戦争と革命に明け暮れていた17世紀から19世紀、日本は「江戸時代」と呼ばれる絶対君主制の時代で、ひとり平和と繁栄を謳歌していた。その秘密を「鎖国」と「参勤交代」、「武士道」によって読み解く。 

第11話 中国の歴史(2014年11月)

 中国文明はエジプトやメソポタミアと同じ時代に黄土高原に誕生し、以来4000年以上も途絶えることなく続いている。だが漢の時代から明、清に至るまで2000年余に亘り皇帝専制国家であり続けたことが近代になって悲劇を生む。 

第12話 『坂の上の雲』の時代(前編)(2015年3月)

 18世紀、イギリスに誕生した産業革命がヨーロッパを帝国主義国家に変貌させた。19世紀後半、ロシアは満州の軍事力を増強し、極東への圧力を強めつつあった。明治維新を経て近代国家になったばかりの日本に危機が迫る。

第13話 『坂の上の雲』の時代(後編(2015年7月)

 明治30年代、子規は病床にあって日本の俳句と和歌を革新する。その友人漱石は、日本語文章語と「国民文学」を確立した。日本海海戦においては、東郷艦隊はロシア・バルチック艦隊を撃沈、日露戦争を終結させた。 

第14話 ニュートンはどうして引力を発見したの(2015年12月)

 コペルニクスの地動説はヨーロッパ・キリスト世界を震撼させた。地動説を支持したガリレオは宗教裁判に。続くケプラーの惑星3法則がニュートンの引力発見につながる。その200年後、アインシュタインの重力波理論によって引力発生の謎が解明された。 

第15話 アメリカ合衆国の歴史(2016年4月)

 アメリカ合衆国は400年前、ヨーロッパからの宗教難民によって建国された。ヨーロッパ白人移民、アジア系先住民、アフリカ系黒人からなる多民族国家アメリカは、超大国となった今も、人種差別という難題を抱えている。 

第16話 極限状況化のリーダーシップ(2016年6月)

 探検や登山において、リーダーシップは隊員の生死にかかわってくる。南極探検のアムンゼンやシャクルトンのリーダー行動から理想のリーダーシップスタイルを導き出す。そしてそのようなスタイルのチームを作れば、凡庸なリーダーでも強いリーダーシップを発揮できることを自身のヒマラヤ「クーラカンリ初登頂」体験から検証する。 

第17話 ヒマラヤはどうしてできたの(2016年11月)

 ヒマラヤ8000m峰のテッペンにアンモナイトやウミユリなどの海の化石がある。ヒマラヤは1億年規模の大陸移動によって、インド亜大陸がユーラシア大陸に衝突、テチス海の底が隆起して、形成された。プレートテクトニクス理論の謎に迫る。

第18話 サムライの時代(2017年7月)

 中世ヨーロッパの封建制が育んだ騎士道は、同時代の鎌倉時代に誕生した武士道とその高貴な精神において一致する。世界の両端に位置するヨーロッパと日本でのみ発達した封建社会が市民革命を経て両地域に近代社会を実現させた。

第19話 イスラム世界(2017年11月)

  イスラム教とキリスト教国の文明間の衝突が世界に頻発している。それは貧しい発展途上国と豊かな先進国家との闘いでもある。しかし世界史を紐解くと、中世1000年間はイスラム教国がヨーロッパをはるかにしのぐ豊かな文明世界だった。

20話 近代ヨーロッパはどうして世界を支配できたの(2018年7月)

 ユーラシア大陸の西突端にある広大ともいえない世界史辺境の地が、近代以降に歴史の重要な舞台となった。ヨーロッパがなぜ近代社会のモデルとなるような『国民国家』を創り出し、世界の富を支配し、文化をリードしたかはひとつの謎である。その謎に迫る。

第21話 生命はどうして誕生したの(2018年11月)

 生命は38億年前、原始地球の海底でひとかけらの細胞として誕生した。30億年余かけて海中で進化し、動物や植物となって3億年前陸上に進出した。赤ちゃんは子宮の海の受精卵(細胞)から地球生命38億年の進化を280日で駆け抜け出生する。その神秘に迫る。

第22話 ロシアの歴史(2019年7月)

 ドストエフスキーの『罪と罰』、トルストイの『戦争と平和』は世界文学の至宝である。ラスコーリニコフやナターシャを生んだロシアとはいかなる国か。ラスコーリニコフと共にネヴァ川に落ちる紅い夕陽を見たい。

第23話 日本人はどこから来たの(2019年11月)

   ことばで物語をつくる言語能力を身につけたホモ・サピエンスは、6万年前アフリカを出発、地球上に拡散する。東南アジアで航海術をみがいたヒマラヤ南回りの一行と、シベリアで寒冷地適応した北回りのサピエンスが、3万8千年前ユーラシア大陸の東端で出会った。海を渡って日本列島に到達した南と北の勇者たちこそ、私たちの祖先である。 

第24話 会社の世界史(2020年3月)

    人類は何万年もの間、森やサバンナで動物を追っかけ狩りをして生活してきた。速く走れて、腕っ節が強くなければ生きていけない。文明社会の今は、早く走れなくてもアタマを使って会社をつくれば、波乱万丈、豊かな人生を送れる。会社をつくってどうやってお金を儲けるか。 

第25話 化学の地球史(2020年11月)

 はやぶさ2が小惑星“りゅうぐう”から地球に持ち帰ったsampleには、水成分(H2O)と有機物(CH化合物)が含まれていた。C・H・Oは生命の基本物質で、人体の93%はこの3元素でできている。46億年前、宇宙から飛来した小惑星はマグマの海に溶け、38億年かけて「化学進化」、地球は生命あふれる惑星となった。地球のような水惑星は、広大な宇宙のどこにも見つかっていない。 

第26話 日本語はいかにしてつくられたか(2021年7月)

 人類は1万年前、メソポタミアで誕生した農業革命によって定住を始める。それより5千年以上も前に自然豊かな日本列島では縄文土器を発明、世界初の定住革命が成立していた。人類の歴史における狩猟採集社会において、縄文時代は世界に抜きんでた文化を持っていたのである。2021年、三内丸山等の縄文遺跡は「普遍的価値を有する人類全体の遺産」として、『世界遺産』に登録された。日本語は、清冽な岩清水の縄文の森で、1万年かけて育まれた「言霊」。 

第27話 森を出た人類のまちづくりの物語(2021年12月)

 猿が木から下りて森を出た。直立二足歩行を始めて、人類が誕生したのは500万年前。その99.8%を人類は移動しながら狩猟採集生活をしていた。その直近0.2%の1万2千年前、人類は農業革命を起こし、都市国家を作った。文明を維持するために、森林を破壊した。それが何をもたらしたか、イースター島の悲劇から学ぼう。

 第28話 アフリカの歴史 ―すべてはこの大陸から始まった―(2022年5月)

    アフリカは「暗黒大陸」といわれた。弓矢と槍を持った狩猟採取民と猛獣とマラリアが跳梁する野蛮の大陸と考えられてきた。500年前の大航海時代以降、アフリカは奴隷貿易と植民地化で、近代ヨーロッパに制圧される。しかし、人類が誕生したのも、世界史上初の文明が花開いたのも、アフリカの大地である。豊富な天然資源と若い人口圧のアフリカは、21世紀世界の成長と安定を牽引する機関車になる。 

    ヒマラヤ山脈の恵みによって、世界最古の稲作と都市文明と世界宗教を生んだインドは、その豊かさ故に異民族の侵入にさらされた。カースト制度とヒンドゥー教、外来イスラム教に加えて、多言語…と混沌としたインドは、大航海時代となって、産業革命立国のイギリスに制圧される。過酷な植民地政策はインドを貧窮ひんきゅうの国にした。独立から75年人口14億、世界最大の民主主義国家となったインドは、「零ゼロの発見」の数学強国であり、IT産業で世界をリードする。

第30話 未知を求めて(2023年3月)(完)

    知らないことを知る。まだ見ぬ世界を目指す。困難と戦って前へ進む。そうやって人類は文明を築いてきた。プレートテクトニクスによって形成されたヒマラヤ山脈がユーラシア大陸の風土と歴史を決定的にした。大陸からほどよく離れた湿潤温暖の日本列島は、1万年の森の文化を持ち、1500年前大陸から到来した文字と仏教をマスター、ユーラシアに対峙した独立の一文明圏を形成した。